睡眠とも疲労とも関係ない本ですが、久しぶりに感動した本の感想を。
著者の妹さんとたまたま知り合って、読み始めた本。主人公の2人の事は全く知らずに読んだけど、すっごく面白かった。こんな魅力的な人がいるんだなあ〜と驚きの連続。それに、開高健ノンフィクション賞を受賞している作品だけあって、すっごく読みやすかった。文章というか文章構成がとても簡潔で、著者の主張は控えめで文章が無色透明というか、ドキュメンタリーなのでダイレクトに登場人物の言動が伝わってきて、とても読みやすく、想いが伝わってくる本だった。
いくつか感動ポイントとか。
「地平線プロジェクト」
「海の上にできる5000mの光の線」。それを、多くのいわき市民のボランティアが作り出した。火薬を使って海の上に一本の火の光を作り出す。いつ消えてもおかしくない難しいアート。それをいわき市民が海岸から見守りながら、みんなが「消えるな、がんばれ」と、アート作品に声をかける場面が、すごく感動した。
資金がない中で市民のボランティア協力があって始まった「地平線プロジェクト」やその他いろいろな作品制作。そんな経緯の中、多くの人が関わって出来上がった作品。今でいうクラファン。制作から関わっていたからこそ「がんばれ〜」と思わず声をかける人々の姿が想像できて、泣けた。スマホもない、昭和だからこそ余計。
「キノコ雲シリーズ」
原爆を意識した作品「キノコ雲シリーズ」は、人類はこれまで育ててもらった母なる地球すら自分たちの手で破壊できるところまで進化してしまった事を告げているように感じられた。
文明は進化し続けるものかもしれないが、もう行き着くところまで来ているように思う。これ以上、便利になったり効率的にしていく事はもう無駄なんじゃないかと思えてくる。今、日本でキャンプブームが起こっているのも、もうそうした進化の方向には飽き飽きした人達が多くなってきた現れなのかなと思った。
北極海単独徒歩横断
素人冒険家の大場さんと、この本の主人公の志賀さんが出会い、世界初の偉業を成し遂げる。大場さんからベースマネージャーを頼まれ、素人の志賀さんがそれを引き受ける話。とにかく、この志賀さんって人が面白い、すごいおっちゃんなんですよ。
若い頃は自作の山小屋に住んだり、仕事を始めるとちょっとした閃きと行動力で瞬く間に結果をだしちゃう人。営業力と人心掌握がとてつもなく高い人。困っている人は放っておけないし、きっと志賀さんの周りには幸せになった人がたくさんいるんだろうなあと思えるくらい、情に熱く、男気のある人。
そんな志賀さんが、北極海単独徒歩横断というプロジェクトのベースリーダーになった時の話。判断力がズバ抜けてる。これは様々な経験をから培われたものなんだろうけど。ある時、大場さんからの連絡が途絶えてしまい、救助に向かうか補給物資を届けるかで決断を迫られる。救助にはすぐに向かう事ができるが、その時点で冒険は終了。物資を届けるには3日後になってしまう。もし命の危険に晒されているとしたら、一刻も早くかけつけなければならない。しかし、大場さんの状況は全くわからない。
そんな状況で志賀さんは決断する。いや、この場面は緊張感もあって泣ける。人の命を左右する決断が、自分にある、ってなかなかない。そしてその人の、夢、目標。命をとるか、夢をとるか。しかもそれが自分のものではなく、他人の命であり夢。これは究極の選択だったと思う。
そんな志賀さんが、この経験から「人間に必要なのは夢と希望」だと言い始め、それは東北震災で結実する。
万本桜
自らも被災者であるにも関わらず、復興のお手伝いをすぐに始めた志賀さん。そして2ヶ月後から、桜を植え始める。周囲の反対も押し切り、将来への夢と希望が必要だと、いち早く感じ取り行動する志賀さん。すごいおっちゃんどころの話ではない。そんな将来を、震災の二ヶ月後に思えるなんて、きっと日本中みても志賀さんしかいなかったはずだ。いままでの人生での経験が見事に行動として現れている。とにかくすごいでは語りきれないおっちゃんなのだ、志賀さんって人が。その魅力が詰まった本です。
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